「実感からの実現」

今回、この企画を持ち込んだ403の辻です。

さて、学生でも講師でも教授でもなんでもない僕らが何故このようなプロジェクトを起こしているのか、という説明をしたいと思います。

403 architectureの半分は学生ではなく、半分は大学院2年で、おもに関東の大学で建築を学んできました。

学部時代は全員横浜国立大学ですから、有名な建築家に建築を学んできたわけです。

課題を経験していくにつれ、僕らの中でフィクショナルな課題やコンペに対するフラストレーションが溜っていき、そのうちに何かを実現したいと思いを6人が共有していきました。そんな中、ヨコハマアパートメントの誕生に立ち会い、仮設資材での空間展示を催させて頂き、初めて「実現する」という概念を知りました。

仮設資材を使うことや、竣工直前のヨコハマアパートで行うこと、僕らが設計者の西田さんと知り合いだということ、僕らが学生でお金がないこと、そういう自分たち自身の状況がプロジェクトの余条件になることで、自然と実感から実現できたのだと思います。

課題で考える実験的な思考の良さももちろんあります、しかしながら、昨今の学生であれば誰でも、「どうせ実現しないから」というシニカルな側面を有しているのは確かな事実です。しかし、課題の評価は残酷に下り、皮肉にもその評価軸に「自分の言葉で説明できている、実感から設計できているから伝わりやすい」という観点が結び付けられているのです。そこまで実感から遠い、課題や、コンペや仙台に必死になる学生を見るのはつらいし、コンペや仙台がダメで世界が終るほどに凹む必要はないどこにもないわけです。

今回は静岡文化芸術大学という静岡県で唯一の建築意匠系の学部を持つ大学の学生たちとプロジェクトを進められていて、もう調査は動きだしているのですが、彼らにもそのような「実感からの実現」を体験してほしいということが僕の個人的なモチベーションです。

だから目の前に確かにある中心市街地の空き室をテーマにして、空き室でどのようなことが起こったら街にとって豊かか、を一緒に考えています。そして実際に何箇所かで実現させることを前提にしています。
調査を進める際、学生には、「本当に明日にでも実現できるような使われ方を意識してください」と伝えてあります。

空き室を本当に使えるのか、管理しているオーナーの許可は取りやすいのか、プログラムに関しては自分の知り合いから使ってくれる主体を辿れるか、お金がない中でどういう資材を使ったらいいのか、自分たちで施工可能な構法か、そういう自分たちの蓋然性がそのままプロジェクトの余条件になっていく。そうしたプロセスを踏むことが、現状では明らかに遠い「建築」を一旦自分に引き寄せて思考するきっかけになると考えています。

中間発表では調査したエリアの範囲内の空き室に対して、自分たちなりの空き室の使い方を以上のような考えの下、提案してもらいました。
結果的にはどの案も自分の言葉で語られて、プログラムも設計資料集成にあるような既存の言葉では表現できないほど複雑で多様なものになりました。各班の構成もM2から学部1年生まで縦割りで組み、提案のきっかけになるのはまだ建築を学んで2か月しか経っていない一年生の意見というケースも見受けられ、単なるリテラシーを超えた部分で思考の共有が進んでいることを実感しています。この実感を、実空間にメタレヴェルの建築の問題として落とし込む作業が建築を学ぶ学生にとって最も重要であることは言うまでもありません。メタもベタも必要なのは明白です。

なにより、学生も僕らも、お金も単位も出ないこのプロジェクトを楽しめている事実を、より多くの方にお伝えしていきたいと思っています。

403 辻